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大腸がん検診の免疫学的便潜血検査って何?

KenUは、毎年健康診断で便潜血検査を受けていましたが、ずっと陰性(異常なし)でした。
しかし、痔の手術中に、医師によって目視で直腸がんが発見されました。
大腸カメラではなく、肉眼で、です(笑

ということで、「簡便に精度よく、確実に早期の大腸がんを発見できる検査方法があればいいのにな」と思い、便潜血検査方法とそのメカニズムについて記事にしたいと思います。

一応、中学生でも理解できるくらいのつもりで、なるべく専門的な用語には説明を加えながら、できるだけ簡単に書いてみます。

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便潜血検査とは、読んで字の如く、「便」の中に「潜」んでいる「血液」があるかどうかを「検査」します。

もしも大腸に「がん」とか「ポリープ」ができていると、それらから出血する場合があり、うんちに血が付きます。
なので、うんちに血がついているかどうか調べることによって、大腸にがんやポリープが出来ている可能性を探ろう、というわけです。

でも、がんやポリープがあっても出血しなければ、結果は「陰性(セーフ)」になるし、結果が「陽性(アウト)」でも、必ずしも大腸にがんやポリープができているとは限らない、という微妙な検査です。

痔で肛門から出血があれば、うんちに血が付くので、がんでなくても結果は陽性になります。

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血液があるかどうかは、血液の中にある「ヘモグロビン(Hb)」というタンパク質を「免疫学的」に検出して調べます。

免疫学的というのは、「抗原抗体反応」のことで、検査は、その原理を応用した検査薬を使用します。

検査薬は、人間のヘモグロビンとだけ反応する抗体が使われるので、動物(牛、鶏、魚など)の血液に由来するヘモグロビンには反応しません。
このことを「特異性」といいます。
つまり、検査前の食事にすっぽんの血を飲もうが、血のしたたるような牛レアステーキを食べようが、焼き鳥レバーを食べようが、検査結果には影響しません。

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検査薬の一番重要な原料である、人間のヘモグロビンとだけ反応する抗体は、どのようにしてつくるのでしょうか?

抗体には、大きく二つ、「モノクローナル抗体」と「ポリクローナル抗体」があります。

ポリクローナル抗体は、ウサギ、ヤギ、ヒツジなどの動物にY字型をしたIgG(アイジージー、免疫グロブリンG)という抗体を作ってもらいます。

IgG分子出典:ウィキペディアフリー百科事典

例えば、「精製したヒトヘモグロビン」と免疫応答を増強させる「アジュバント」という物質の混合物をひつじさんに注射します。

ひつじの免疫

ひつじの免疫

ひつじさんにとって人間のヘモグロビンは異物ですから、免疫が働いて抗体をつくります。

飼育しながら、抗体価が上昇するまで何度か注射(追加免疫)をすると、ひつじさんの血液中にIgGができます。

ひつじさんから血液を採取して、アフィニティークロマトグラフィーという方法でIgGを精製します。

このようにして作ったIgGは、「人間(ヒト)」の「ヘモグロビン(Hb)」に「抗う(あがらう・立ち向かう)」抗体なので、「抗ヒトHb抗体」といいます。

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免疫学的便潜血検査薬の検査方法には、「ラテックス凝集法」と「免疫クロマトグラフィー法(イムノクロマト法)」があります。

まずはじめに、ラテックス凝集法での便潜血検査について解説します。

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ラテックスとは水中にポリマーの微粒子が安定に分散したエマルション(乳液)のことをいいます。
牛乳もエマルションの一つです。

ラテックス凝集法では、ソープフリー乳化重合という方法でスチレンモノマーとスチレンスルホン酸ナトリウムとアクリル酸モノマーを共重合させて作ったポリマー粒子に、抗体をくっつけたエマルションを使います。

粒子は、「単分散」という粒の大きさがそろっているもので、粒の大きさはナノサイズ(100~200ナノメートル)です。

共重合したスチレンスルホン酸のSO3-が、粒子同士を反発させて凝集するのを防いで、安定に分散させる役割をします。
アクリル酸のCOO-には、水溶性カルボジイミド(WSC)という試薬を使って、抗体を下図のようにくっつけます。

抗体固定化ラテックス粒子

ポリスチレン粒子への抗体固定化

これを、「抗体固定化ラテックス」といいます。

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さて、便潜血の検査では、排便直後の新鮮なうんちを「採便棒」にこすり取って、「便溶解液」という液体が入った「採便容器」の中に差し込み、うんちを溶かします。

採便容器

便潜血検査用の便の採取と溶解

便溶解液は、ヘモグロビンが壊れにくい緩衝液でできています。
また、便をたくさん採れば正しい検査ができるというわけではないので、採便棒には溝(みぞ)があり、擦切られて溝に残った一定量の便だけが採便容器の中に入る構造になっています。

このようにして採取した便を検査機関に提出します。

*

検査機関では、自動検査装置で便中のヘモグロビンが測定されます。

仕組みは簡単。

「便溶解液」と「抗体固定化ラテックス」が混合され、便溶解液にヒトヘモグロビンが含まれていると(下図A)、「ラッテックス」に固定化された抗体がヒトヘモグロビンに結合して、粒子が「凝集」します(下図B)。

ヒトHb抗体固定化ラテックスとヘモグロビン

図A

ヘモグロビンによるヒトHb抗体固定化ラテックスの凝集

図B

粒子が凝集せずによく分散しているときは、光がよく散乱して光の透過量が少なくなるのに対して、粒子が凝集すると光の散乱が減少して光の透過量が多くなるので、光学的に便中のヘモグロビンの量を測定することができます。

というわけで、このようなメカニズムの検査法を「ラテックス凝集法」といいます。

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つぎに、イムノクロマト法での便潜血検査について解説します。

測定原理は、市販されている「妊娠検査薬」や「インフルエンザ検査薬」と基本的には同じです。

イムノクロマト法は、「モノクローナル抗体」を「金コロイド」という数十ナノメートルの大きさの金の微粒子に結合して使用します。ここでは、何故か結合することを「固定化」と言わず「標識」といいます。

抗体の標識は、静電相互作用と疎水性相互作用で受動吸着するので、抗体溶液と金コロイド分散液を混ぜるだけです。 WSCのような反応性のある試薬は使いません。
そのようにして作った「金コロイド標識抗ヒトHbモノクローナル抗体」分散液は、「ガラス繊維フィルター」の中に乾燥します。

その他に、「ニトロセルロースメンブレン」という、ろ紙みたいな、多孔質になっている膜を使用します。
ニトロセルロースメンブレンには、「抗ヒトHbモノクローナル抗体」を一本の線状に固定化します。これを「試験片」といいます。
抗体の固定化は、ファンデルワールス力で吸着するので、抗体溶液をライン状に塗布して乾かすだけです。

では、検査の原理を図で解説します。

イムノクロマト法

免疫クロマトグラフィー法のイメージ

(1)便溶解液を試験片端部に接触させているガラス繊維フィルターに2滴ほど滴下します。
(2)すると、ガラス繊維フィルター中の金コロイドが分散して、試験片の中を濡れながら広がっていきます。このことを「展開」といいます。そして、便溶解液中にヘモグロビン(Hb)があると、金コロイドに標識化された抗体につかまり展開していきます。
(3)展開が進むと、試験片に固定化された抗体も金コロイドにつかまっているヘモグロビン(Hb)をつかまえます。
(4)さらに展開が進んで、試験片の抗体塗布線上に金コロイドが凝集し、赤紫色のラインとして目で見えるようになって、ヘモグロビンの有る無しを判定できるというわけです。ヘモグロビン(Hb)を捕まえていない金コロイドは試験片の末端まで通り過ぎていきます。

ちなみに、「金コロイドの抗体」と「試験片の抗体」とで抗原(検査目的物質)を「挟んで検出」することから、サンドイッチ法と呼ばれます。

*

検出精度を向上するために、人の血液にある成分でヘモグロビン(Hb)よりも便中の微生物に分解されにくい、トランスフェリン(Tf)というタンパク質を検出する便潜血検査薬もあります。
それでもいまのところ、大腸内視鏡検査が確実に大腸がんを発見できる手段です。

特許的には、大腸がん細胞特有の粘膜タンパク質を検出する免疫学的検査方法が開示されていますが、単なるアイデア特許で実用化はされていないのかな?

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ということで、これから研究者を目指す中学生のみなさん、画期的ながん検査薬を開発してください。

説明難しかった?(笑

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カテゴリー:テクノロジー, 医療

バイク用のレインウエアにはどれくらいの耐水圧が必要か?

さて、最近、某バイク屋さんのYouTubeチャンネルで、「バイク用の雨具が新品なのに濡れるのは何故?」という内容の動画を見つけました。

その中で、視聴者の方がバイクの走行速度から雨の衝突圧をシミュレーションして、雨具の耐水圧という視点から原因を追及しています。

それで、YouTubeの計算の前提条件が分からなかったので、KenUの計算の仕方を少し詳しく解説したいと思います。

ちなみに、中学数学と高校物理程度の内容なので難しくないです。

では、以下どうぞ。

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○前提条件・・・雨の落下速度

雨は地上に到達するまでに、空気抵抗によって落下速度が一定の終末速度に達します。
そして、粒の大きさで終末速度が変わります。
空気抵抗の計算が複雑で、研究者によって計算の仕方が異なるので、終末速度の計算値は変わります。
雨滴の落下 終末速度
KenUは、一宮先生の数値を使用します。
つまり、
雨粒直径0.2mm=終末速度1.2m/s
雨粒直径1.0mm=終末速度3.0m/s
雨粒直径3.0mm=終末速度5.5m/s

*

○前提条件・・・モーターサイクルでの走行時の雨の衝突速度(v)

雨は無風状態で垂直に落下するものとします。
バイクの時速を換算(Km/h→m/s)して、三平方の定理で、雨粒の衝突速度(m/s)を求めます。
雨粒バイク衝突速度
※バイクイラストはYAMAHA RevNoteのまねです。

3mm雨粒(5.5m/s)、バイク時速30Km(8.33m/s)のときは、9.98(m/s)

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○前提条件・・・雨粒の重量(m)

雨粒の半径から球体の体積(cm3)を計算し、水の密度(g/cm3)=1として、重量(Kg)を求めます。

球の体積=4/3πr^3

3mmの雨粒の体積は、0.0141372(cm3)、重量は0.0000141372(Kg)

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○前提条件・・・単位面積当たりの衝撃力

以前は、雨粒の中心の断面積の数値を使いましたが、今回は少し変えてみます。
半径(r0)の雨粒が衝突して、半分に潰れたときの衝突面半径(r)を計算して、そこから衝突面積を求めます。
衝突雨粒変形モデル

3mm雨粒の場合、上図点線球と1/2扁平球体の体積が同じとして、扁平球体の体積=4/3πab^2から逆算して、r=2.1213(mm)、面積は0.1413717(cm2)

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○前提条件・・・減速時間(Δt)

減速時間とは、ある速度でぶつかって、速度がゼロになる時間。
わかりやすく言うと、雨がペチャっとあたって止まる瞬間の時間

雨粒の直径(m)を衝突速度(m/s)で割って、時間(s)を求めます。

3mm雨粒、衝突速度9.98(m/s)の場合、0.0003005(s)

*

○前提条件・・・その他

衝撃力は、
F(N)=mv/Δt

重力加速度は、
9.80665(m/s2)

とし、

N→N/cm2→Kgf/cm2→mmAqを計算していきます。

3mm雨粒、バイク時速30Kmのときは、0.4698(N)→3.3231(N/cm2)→0.3389(kgf/cm2)→3389mmAq

*

○計算結果

で、計算結果から、それぞれの大きさの雨粒のときのバイク走行速度と雨があたったときの圧力(水柱mm)の関係をグラフにすると・・・

雨粒と走行速度 雨粒圧力グラフ

になりました。

暴風雨で雨の速度が変わるとか、衝突面積をどう考えるかとか、計算の前提条件が変わると、結果もまた変わってきます。

今回の計算では、YouTubeの結果と同様に、バイクに乗るときは、耐水圧10,000mm程度の防水性の雨具では物足りないという結果になりました。

一つの単純な計算モデルでの計算なので、風圧がどうだとか、温度で水の密度は変わるだとかは無視しています。

*

ちなみに、座ったときにお尻にかかる圧力というのは、褥瘡や車いすなど医療上の問題で耐圧分散といった観点からよく研究されていて、強いところで180mmHg(水柱2,400mmAq)くらいの圧力がかかります。

なので、耐水圧2,000mm程度の雨具だと、濡れたシートに座るとお尻は濡れるんでしょうね。

*

で、最後に少し・・・

実は、2012年に書いた「10Bar,10気圧防水(Water Resistant 100m)時計で水泳できる?」という記事の中で、防水時計はバイク走行中の雨に耐えられるか?という内容で、同様にシミュレーションしています。

その記事は、「自称時計好き」の人達から批判・誹謗中傷をあびて、「OKWAVE(教えてGoo)」にも削除要請したけど争いに負けたので、一端削除してリンクを切って2014年に再アップしたという経緯があります。

KenUは結構嫌味で不真面目っぽい奴に見えたり、神経を逆撫でするようで、敵を作りやすいというのも原因なんでしょうけどね(笑。

で、今回の記事では、前提条件が違うのでYouTubeで紹介されている数値と今回KenUの計算値とでは、ずれがありますが、基本的に計算も結果もほぼ同じです。
だから、今回の記事は誹謗中傷されないかな?と思うとちょっと安心です。

どちらの結果が、正しいとか、正しくないとか、ということではなく、このように計算するとこうなりますよという説明です。
また、雨具の性能を保障するものではないということをご了解ください。

************** 関連記事 **************

大型バイクを起こすのに必要な力を計算してみた。そして理論通り楽々起こせた。

エンジンスライダー、フレームスライダーは必要?不要?取り付けたらだめなの?

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エンジンスライダー、フレームスライダーは必要?不要?取り付けたらだめなの?

さて、以前、「新年乗り始めMT-09で立ちごけ。ダメージはどれくらい?」という記事の中で、サイドスライダーを取り付けていたおかげで、ダメージが少なくてよかった、ということを書きました。

MT-09 Side Slider

それで、エンジンスライダーやフレームスライダーについて、間違った認識を持っておられるライダーさんがいるかもしれないので、スライダーの目的や効果について記事にしたいと思います。

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目次
1.スライダーの目的は?
2.スライダーのはじまりは?
3.スライダーによるダメージ低減の原理は?
4.スライダーは滑って危険?
5.スライダーは、フレームやエンジンを歪める?
6.スライダーは必要か?不要か?
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1.スライダーの目的は?

まず、スライダーとは何か?

エンジンスライダー【別称】スライダー/エンジンの外側に取り付けることで、転倒した際のエンジンへのダメージを軽減するためのパーツ。ちなみに、クランクケース下部を守るために取り付けられているパーツはエンジンガードという。
出典:YAMAHAバイク用語辞典(http://www2.yamaha-motor.jp/bike-word/

事故または不慮の転倒時に、フェアリング(カウル)、フレーム、エンジン及びその他パーツへの損害を最小にするために、スライダー(フレームスライダー、フレームプロテクター、フェアリングプロテクター、クラッシュボビンなどと呼ばれている)はオートバイに取り付けられます。
出典:WIKIPEDIA、Motorcycle accessories(ウィキペディア、モーターサイクル アクセサリー)(https://en.wikipedia.org/wiki/Motorcycle_accessories

※ちなみに、白バイや教習車に取り付けられているものは、エンジガードではなく、クラッシュバーと呼ばれるものです。

上記のとおり、スライダーの目的は、「損害の軽減」です。
それ以外の目的はありません。

レースでの転倒時にバイクを滑りやすくしてコースアウトさせ、コース上の安全を確保するためのもの、ではありません。
これを目的とするならば、ベアリングローラーを車体に取り付けることをレギュレーションに加えるのが確実です。

レギュレーションには、3つのレベル、required( 要求)、 recommended(推奨)、 optional(任意)がありますが、スライダーのレースでの使用は、要求でも推奨でもなく、市販の部品なら取り付けをapproval(許可)する程度のレベルです。

その根拠になるレーシングルールやスラーダーの滑り実験に関する論文などの出典を「フレームスライダーって本当に滑るの?」(←参照リンク)という記事で紹介しているので、そちらを参照してください。

スライド=滑る、だから、スライダー=バイクを滑らせるための物 なのでしょうか?
いいえ、バイクを保護するために、結果として、車体の高価な部品の代わりに滑る(擦れる、すり減る)ものということです。
「すり板」も英語でスライダーといいます。
さらに言うと、ニースライダーとかトゥースライダーとかもありますし。

また、一般の市販車に取り付けるものは、レース用ではなく、 for Street Bikesです。

*

2.スライダーのはじまりは?

ごめんなさい。海外サイトも色々と調べているのですが、まだ、私KenUは調べ切れていません。
古くからあるらしいのですが、はっきりとわかりません。

耐久レースでの事故時に、バイクの損傷を防ぐことが出来れば、レースに復帰して入賞が狙えるから・・・
という話があります。
そう言わてみれば確かに、耐久レースとは違いモトGPレースでは、転倒したら入賞はありえないのでレースに復帰する必要もなく、スライダーは取り付けられていませんよね。

それから、アマチュアレーサー、セミプロレーサーのために開発されたという話もあります。
つまり、プロレーサーのチームのように潤沢なレース資金があるわけではないので、バイクを壊したくないという事情によるとのこと。

一方、バイクスタントでの損傷防止のため、というのもあります。

ここまでで、スライダーはバイクを滑らせるものではない、ということがよく分かります。

*

3.スライダーによるダメージ軽減の原理は?

バイクへのダメージ軽減の原理は、一言でいえば衝撃力の緩和(応力緩和)です。

それは、物理学で説明できます。

物体の質量をm[kg]、衝突する速度をv[m/s]、減速時間をΔt[s]とすると、衝撃力F[N]は、

F=mv/Δt

で表されます。

つまり、スライダーを取り付けてΔtを大きくすることによって、衝撃力が小さくなります。

ここで誤解しないで欲しいのは、減速時間(Δt:デルタティーと読む。)というのは、転倒後のバイクが停止するまでに要する時間ではないということです。
転倒してザザザァ~ッ!っと滑って止まるまでの時間ではありません。

スラーダーが効果を示す減速時間(Δt)の変化は、転倒して車体がガツンッ!と地面に激突した瞬間の、衝突面が変形し始めてから変形しきるまでの、零コンマ数秒といった、ものすごく短い時間の話しなんです。

では、衝撃力の緩和について、鶏卵を例にして考えてみましょう。
テーブル(木製)と座布団の上に、0.5mの高さから、重さ70gの卵を落とします。

テーブルの上に落としたら、卵は割れますよね?
テーブルは硬くて変形しないからです。
衝撃力を計算してみます。

重力加速度g=9.80665[m/s2]、高さh=0.5[m]とすると、衝突するときの速度は、v=√2gh=3.132[m/s]です。
卵(重さm=0.07kg)がテーブルに衝突して、殻の厚み1mmが割れて1mmへこんで、合計2mm(0.002m)変形して止まったとします。
その時間(減速時間(Δt)という)は、距離(0.002)÷速度(3.132)=0.00064秒なので、
衝撃力は、F=mv/Δt=0.07(kg)*3.132(m/s)/0.00064(s)=343(N)

一方、座布団の上に落としても、卵は割れません。
どういうことかというと・・・
座布団は柔らかくて変形するので、卵を落とした部分が沈み込みます。
この沈み込む(変形する)時間の発生が、減速時間(Δt)の変化です。
座布団が2cm(0.02m)沈み込んで卵が停止する時間(減速時間(Δt))は、0.0064秒なので、
衝撃力は、F=mv/Δt=0.07(kg)*3.132(m/s)/0.0064(s)=34(N)
10分の1になりました。

というわけで、転倒し地面に激突した一瞬の運動エネルギーをスライダーが受け止めて、弾性変形、塑性変形することでΔtが大きくなり、衝撃力が緩和されます。
だから、ナイロン、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)など、エンジンやフレームよりも柔らかくて弾性変形、塑性変形しやすい素材、すなわち、樹脂製のスライダーが良いのです。
アルミ合金製とかチタン合金製のような硬い材質のスライダーを製造販売しているメーカーがありますが、衝撃力緩和の理論を理解していないのかなぁ?と思います(笑

*

4.スライダーは滑って危険?

路上で転倒したときにバイクが滑り、その先に子供ずれの家族がいたら大変だから、スライダーはつけるべきではない?

スライダーはバイクを滑らせることが目的のものではないので、そうではないです。
スライダーを取り付けてはいけないのではなく、転倒時にバイクが激しく滑っていくような運転や転倒するような無理な運転を市街地や一般道路でしてはいけないということです。

時速200km以上のハイスピードレースの転倒映像を見ると、エンジンスライダー装着有無の関係なしにバイクは遠くまですっ飛んでいきます。
危険です。
でも、子供ずれの家族が歩いているような場所で、何百キロもの速度で走らないですよね?
スピード落としますよね?
小路では徐行しますよね?
そうすればバイクが転倒しても、普通は子供ずれの家族に突っ込んだりしません。
高速道路で時速100kmの速度で転倒しても、子供ずれの家族は路肩を歩いていません。

また、物理学のお勉強です。
例えば、バイクで時速200kmで走行中に転倒したときに、ある距離を滑るとします。
では、もっと遅い速度だったら、滑る距離はどれくらい短くなるでしょうか?

運動エネルギー(E)は、E=1/2mv^2で表されます(m:質量、v:速度)。

つまり、運動エネルギーの大きさは、速度の2乗に比例します。
50km/hは200km/hの1/4の速度ですから、運動エネルギーは1/16になります。
20km/hは200km/hの1/10の速度ですから、運動エネルギーは1/100になります。

路面状況にもよるし、路上で転倒したときに実際にどれくらい滑るのかわかりませんが、例えば・・・
時速200km/hの速度で転倒したときに、バイクが100m滑ると仮定した場合、時速50km/hのときは100m/16=6.25m、時速20km/hのときは100m/100=1m しか滑らないと計算できます。
実際には、速度が遅くなると摩擦係数も増加するので、さらに滑りにくくなります。

YouTubeで、バイクのクラッシュ映像をいろいろと見てみました。
すると・・・ 結構なスピードが出ているのに、転倒したバイクは、スライダーがついていても思ったほど遠くまで滑っていってません。
スライダーは付いていないけれど、比較的遠くまで滑っているバイク映像をたくさん目にします。
フルカウルのバイクなどは、スライダーがないほうがむしろ遠くまで滑って行っているような感じさえします。

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5.スライダーは、フレームを歪める?エンジンにダメージを及ぼす?

スライダー取り付けると、転倒時にフレームが歪んだり、エンジンにダメージが及ぶ?

スライダーのせいでフレームが歪んだ、という情報は見付けることができませんでした。
スライダーを取り付けていなくて、エンジンが破損した、エンジンからオイルが漏れた、カウルや燃料タンクが傷だらけになった、ブレーキペダルが曲がった、その他の部品が破損した、という情報がたくさんあります。
逆に、スライダーのおかげで、被害が小さくて済んだ、付けていて良かった、という情報がたくさんあります。

まあ、普通は、スライダーは、フレームやエンジンよりも高い強度を有するものではないので、それらを歪ませるほどのものではないということは、容易に想像できると思います。

*

6.スライダーは必要か?不要か?

わかりません。

長々と読ませておいて、結論それかよっ!(笑

というのは、バイクによって転倒時に地面にぶつかるところが違うから。
あまり効果のない、いい加減な設計のスライダーもありそうだし。

YAMAHA MT-09の場合は、スライダーなしの状態で左側に立ちごけすると、グリップエンド(1,177円)、クラッチレバー(1,339円)、フロントステップ(2,516円)、バンクセンサー(92円)、バックミラー(4,849円)、クランクケースカバー(8,888円)にダメージがあります。
修理した場合には、パーツの合計金額18,861円(税込み)+部品交換作業工賃。
「その程度の金額なら、スライダーつけなくてもいいや」という人もいるでしょう。

フルカウルバイク(YAMAHA YZF-R25)のパーツ金額でも、タンクカバー(1,825円)、カウル(片側11,448円)といった程度です。

また、スライダーが付いていないほうがバイクは断然カッコイイので、「飾りにもならないスライダーなんて、イラねー」という人もいるでしょう。

KenU_s MT-09 2015

KenUの場合は、MT-09にヤマハ純正のサイドスライダー(税込28,080円)を取り付けたので、立ちごけしたときに、上記のうちクランクケースカバーは保護されました(関連記事参照)。
パーツ価格だけで考えると、スライダーのメリットはあまり無いように感じます。
でも、他のケースでもっとひどく転倒した場合を考えると、サイドスライダーがないよりは確実にエンジンは保護できるし、気持ち的には安心です。

スライダーを取り付けるか否かは、想定するダメージ、部品代金、走るロケーションと転倒する可能性、ロードサービスの有無、事故時の自走可能性、修理作業費(工賃)、修理に出す手間、修理期間などから、コストベネフィットを考えて決めたらよいのではないかと思います。

KenUの場合は、50過ぎという年齢で、いきなり大型免許をとって、いきなり大型バイクを購入した超初心者なので、何度かバイクを倒すであろうことは想定済みで、もしかしたら、対向車が急に右折してきたのを避けるために転倒するかもしれないことも想定して、サイドスライダーを取り付けたという訳です。
また、最初で最後のバイクにするつもりなので、エンジンは壊したくないという思いもあります。
ちなみに、峠道を攻めて転倒するような、過激な運転での転倒は想定していません。

*

最後に・・・ スライダーを付けている、付けていないに関わらず、公道はレース場ではないのですから節度をもった運転をしましょうね。

MT-09 Tail Style

************** 関連記事 **************

ストーマでも、いきなり大型自動二輪免許とりました。

いきなり大型バイク購入。納車されました。

新年乗り始めMT-09で立ちごけ。ダメージはどれくらい?

バイク用のレインウエアにはどれくらいの耐水圧が必要か?

フレームスライダーって本当に滑るの?

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カテゴリー:テクノロジー, バイク

植物組織培養は簡単だけど家庭での実験は難しいと思う。

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目 次
1.はじめに
2.植物組織培養の工業化
3.検討アイデア
4.カルス誘導培地と分化誘導培地
5.植物材料の殺菌方法
6.カルス培養が無菌である必要性とダブリングタイム
7.自宅での植物組織培養実験について
8.専門の施設でしましょう。
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1.はじめに

万能細胞として一躍注目を浴びた ” STAP細胞(スタップ細胞)) ” ですが、論文を取り下げて成果が白紙になろうとしています。
論文を捏造するなんてとても信じられず「魔が差した」の一言で片付けるには余波が大きすぎると思いました。

さてそれで、万能細胞という言葉でブログネタとして思いついたので、” 植物細胞の培養(植物組織培養) ” について少し書いてみようかと思います。

*

2.植物組織培養の工業化

植物の細胞は「分化全能性」という、細胞があらゆる細胞に分化することができる、つまり完全な一個体を形成できる能力があります。
いわゆる万能細胞ですね。
それで「植物組織培養」という技術を使って、細胞を短期間に大量に増殖させて、その細胞を植物体に再生すること(再分化という。)や有用物資(抗がん剤等の生理活性物質)を植物細胞に作らせる試みが研究分野や産業分野で実際に行われ実用化されています。

植物の細胞は根、茎、葉など、どの部分からもとることができて、特殊な薬品を使って培養すると植物の形をしないモコモコっとしたポテトサラダ?とかカリフラワー?みたいな感じの細胞の塊(カルスという。)で増やすことができます。

国内において工業的に大量培養された例は、KenUの知っている限りでは、
・日本専売公社(現、日本たばこ産業株式会社(JT))のタバコの培養、
・三井石油化学工業株式会社(現、北海道三井化学株式会社)のムラサキ(生薬のシコン(紫根))細胞培養によるシコニン色素生産(カネボウ化粧品、バイオリップスティックに使用)、
日東電工株式会社のおたね人参(生薬の「高麗人参」)細胞培養による漢方エキス生産(ライフィックス;LIFIX(現、JTビバレッジ))、ローヤルスター500清涼飲料水(指定医薬部外品のローヤルスター500Dとは異なる)に使用)、
の3例あります。

しかし、これらは全て現在では行われていないようです。
どうしてなのか、そのはっきりとした理由はわかりませんが・・・。

植物組織の大量培養というのは、多大な電力を使用するのでエコではありませんし、意外にコストがかかります。
放って置いても大地で太陽光を浴びて光合成で成長する植物体と違って、植物細胞には栄養分を与えてあげないといけないし、電気を使用してコンプレッサーを動かして空気(酸素)を与えてあげたり温度を一定に保ってあげないといけません。
それから、細菌に汚染されると培養できないので、成長するまでの長い時間を無菌的な環境に維持する必要があります。
ハリウッド映画の「マトリックス」で人間が培養されていたり、「バイオハザード」でアリスが液体の中で培養されていたりしているのと同じようなものですね(笑。

なので、海外の広大な土地を安く購入して、植物体を大量に栽培するほうが圧倒的に安く生産できるのでは?と思います。

それから、微生物や人の精子などは凍結保存が可能ですが、植物細胞は凍結保存が難しいのです。変異していない安定した形質をもった植物細胞を維持するのがとても難しいという問題もあり、再現性のある、また一定の生産性のある植物細胞を長期間に渡って維持・保存することが困難です。

上記の事から、よほど付加価値の高いものでないと採算は合わないであろうとKenUは想像します。

*

3.検討アイデア

それで、かなり以前にKenUが一つのアイデアとして考えていたのが、アカマツの組織培養です。
←アカマツ

松島(宮城県)の松枯れ被害を防ぐ研究のため?
いいえ違います。
可能かどうかわかりませんが、アカマツの不定根(ふていこん)を培養して松茸の栽培用の菌床に使えないか?
松茸の栽培は未だにどこも成功していなくて、その理由として松茸は菌根共生菌であり共生主となる植物が必須なので、培養細胞を共生主として代用できないか?と思った訳です。
カルス誘導はしたけど、その後実験していません(汗

と、ここまでが本題の前置きです。
この後は、少し知識がないと、恐らくちんぷんかんぷんな話になるかも知れません。
ごめんなさい。

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4.カルス誘導培地と分化誘導培地

植物細胞の培養自体はとても簡単です。

植物を殺菌して根とか葉とかを切り出して、ショ糖と植物ホルモンを含む無菌の培地の上に乗せておけば、不定形の未分化細胞(カルスという。)がモコモコと増えてきます(これを、カルス誘導とか脱分化という。)。

専門書を読むと、培地の種類は何種類かあって、植物ホルモンのオーキシンサイトカイニンも何種類もあって、「それらの配合バランスが大事です」みたいなことが書かれていますが、そんなこと言われても色々試さなくちゃならなくなって、どの組成にしたら良いか悩むし、はっきり言って困りますよね?

ということで、KenUが教えちゃいます。
次の条件でたいていの植物のカルス誘導はできます。

——-カルス誘導培地——–
・Murashige and Skoog培地(MS培地) ※pH5.8に調整
・寒天0.9%(9g/1000mL)
・ショ糖3%(30g/1000ml) ※いわゆる砂糖、スーパーで売っているスプーン印のグラニュー糖や上白糖でも良いです。
←上白糖
・2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)1ppm(1mg/1000mL) ※オーキシン
・キネチン(Kinetin;カイネチンともいう。)1ppm(1mg/1000mL) ※サイトカイニン
———————————

暗所、25℃で培養します。
カルスが誘導できたら、今度はサイトカイニンとオーキシンの種類や配合バランスを変えて、カルスを増やしたり、根や葉を生やしたり、植物体に戻したり(再分化という。)をさせて遊びます(笑
これまたどうしたら良いかわかりませんよね?

で、これも教えちゃいます。

——-分化誘導培地——–
・Gamborg’s B5培地(ガンボーグB5培地) ※pH5.8に調整
・寒天0.9%
・ショ糖3%
・インドール-3-酪酸(IBA)2ppm(2mg/1000mL)
・キネチン0.1ppm(0.1mg/1000mL)
———————————

光を当てて25℃で培養すると葉緑体が形成されて葉っぱも出てきます。

以上、培養条件を自信満々に書きましたが、上手くできなかったらごめんなさい。
とりあえず、まずはこれを基本にやってみてくださいということで^^。
ちなみに、ネットで紹介されているハイポネックス培地は、上手くいかなかったです。
←ハイポネックス

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5.植物材料の殺菌方法

それから、カルス誘導する時に植物の殺菌をしますが、専門書に書かれている方法では失敗が多くコンタミ率が高いです。 (コンタミ;コンタミネーション(contamination)、ここでは雑菌・細菌により汚染されることをいいます。)

それは何故か?

——-専門書の殺菌方法——–
・水道水(流水)で植物材料をよく洗う。
以下、クリーンベンチの中で、

・滅菌精製水(精製水をオートクレーブで蒸気滅菌したもの)ですすぐ。
←精製水(滅菌して使用)

・消毒用エタノール(70w/w%≒80v/v%)で1~3分間洗う。
←消毒用エタノール(そのまま使用。※酒税がかからないように、エタノール以外にイソプロピルアルコールを添加して飲めないようにしているので注意)

・滅菌精製水ですすぐ。

・1%次亜塩素酸ナトリウム溶液で15~20分間洗う。(TWEEN20を加える例もあり。)
←次亜塩素酸ナトリウム4%溶液(滅菌精製水で希釈して使用)

・滅菌精製水で洗う。
—————–

はい、これでは材料の洗浄が不十分で、せっかくの抗菌スペクトルの広く即効性のある消毒用エタノールによる殺菌効果が十分に発揮できず、台無しです。
ちなみに、次亜塩素酸ナトリウム溶液は芽胞に効くというメリットはあるが浸透性も低いし遅効性で殺菌効果は弱いのです(参照リンク→医療現場における次亜塩素酸ナトリウムの特性と有用性)。
なので、消毒用エタノールによる殺菌効果を十分に発揮させることがポイントになります。

ということで、ではどうしたら良いか、その理由も解説付きでKenUが教えちゃいます。

——-KenUの殺菌方法——–
・先に手をよく洗います。参考リンク(KenU関連記事)→衛生管理における”手洗いの仕方”と”エアシャワーの浴び方”

・植物材料をママレモンで洗う。(これで、完全ではないがかなりの土埃や細菌を洗い流すことができる。)
←ママレモン(少量を水に薄めて使用)

・水道水(流水)でよく洗う。(ママレモンをよく洗い流す)
以下、手洗い・手消毒後クリーンベンチの中で、

・植物材料を滅菌精製水ですすぐ。

・1%次亜塩素酸ナトリウム溶液で15~20分間洗う。(殺菌の効果よりも洗い残しの泥や汚れをさらに除去する効果を狙ったもの。なお、tweenを加える必要はない。)

・滅菌精製水でよくすすぐ。

・消毒用エタノール(70w/w%≒80v/v%)で1~2分間(ものによって変える。葉っぱとか細い根など柔らかいものは弱いので短時間で、硬い、太いものは時間長めでOK)洗う。(先の次亜塩素酸ナトリウム溶液によって材料が十分に洗浄されているので、短時間の処理で抗菌スペクトルの広い消毒用エタノールの殺菌効果が発揮される。なので長い時間洗っても意味はなく、逆に植物細胞にダメージを与えるので短時間の処理で済ます。)

・滅菌精製水でよくすすぐ。(エタノールによる細胞へのダメージを停止する。)
—————————-

これで、コンタミ率激減間違いなしです!

ということで、植物組織培養って意外にも簡単に出来ちゃいます。

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6.カルス培養が無菌である必要性とダブリングタイム

[2014.07.03追加]
カルス誘導や培養はなぜ無菌にしないといけないのか?という内容で検索してくる人がたまにいます。
なので記事を追加します。

その理由のひとつは、細菌の増殖速度は植物の成長速度よりもはるかに速いので、植物の成長に必要な培地の糖などの栄養分を細菌が消費しつくしてしまうので、植物細胞が成長するための栄養分が足りなくなって成長できなくなるからです。

そんな馬鹿な!って思うでしょ?
たとえば、もっとも成長が速いタバコ細胞でも、1個の細胞が2個に増える時間、つまり2倍に成長する時間、専門用語でいうと倍加時間(ダブリングタイム)は12時間(720分)もかかります。
一方、大腸菌のダブリングタイムは15分です。

この差をわかりやすく説明すると、1個のタバコ細胞は12時間で1回しか分裂しないのに対して、大腸菌は12時間で48回も分裂して2の48乗倍に増える訳です。
それぞれ1個の細胞が何時間後に何個になっているかを表にしました。
植物組織培養_増殖速度の違い
100万個のタバコ細胞に1個の大腸菌が入っただけでも、あっという間に汚染されてしまうことが分かります。
実際には、大腸菌はここまで増える前に栄養分を消費しつくして10^7~10^9/mLまでしか増えませんが。

ついでに、ダブリングタイム(Dt)の計算の仕方も書きますか?

植物細胞の数など数えられませんから普通は細胞重量で計算します。癌細胞は大きさを計測して計算するようです。

初期の細胞X0が、t時間後にどれくらいの細胞Xに増加するかは、
X=EXP(μt)・X0 ・・・式①
μは比増殖速度。

まずは、初期細胞が何時間後にどれくらいまで増殖したかを測定し、μを求めます。
例えば、培養開始時3.2gのタバコカルスが36時間後に25.6gまで増えたとします。
そうすると、式①を変形して、
X/X0=EXP(μt) ・・・式②

さらに変形して、
ln(X/X0)=μt ・・・式③

よって、μ=ln(X/X0)・(1/t)なので、μ=ln(25.6/3.2)・(1/36)=0.057762265h^-1となります。

比増殖速度μがわかったので、今度はダブリングタイム(Dt)を求めます。
細胞が二倍になる時間を求めるのだから、式③の(X/X0)が2になることを考えて、
ln2=μ・Dt ・・・式④

よって、Dt=ln2・(1/μ)なので、Dt=ln2・(1/0.057762265)=12h

はい、ダブリングタイム(Dt)は12時間になりました。

では、上表の例から問題です。
培養36時間のときに8gだったタバコカルスは培養84時間のときに何gになるでしょうか?

この時のtは84時間ではなく、⊿tなので(t2-t1)です。
式①から、X=EXP(0.057762265・(84-36))・8=128g

はい、上表と同じ結果になりましたね。

*

7.自宅での植物組織培養実験について

では、家庭や自宅でもできるの?
一般家庭での培養のやり方や自宅でそろえる代用の設備等を解説しているサイトはあるにはあります。
とりあえず・・・私見を。

家庭でカルス誘導だけして遊ぶ程度ならかまいませんが、それ以上の成果を追求したいのであれば、はっきり言ってやめておいたほうが良いと思います。
実験器具(ガラスフラスコやディスポーザブルプラスチックシャーレ、操作に使用するピンセット、植物を切り出すナイフ(メス)、はさみなど)はネットでもホームセンターでも購入できるので問題はないでしょう。
     

←科学実験理科屋さん(ショップリンク)

しかし、家庭用品で代用できると言われているものもありますが設備が色々と必要で高額な出費になります。

ネット上で紹介されているものを、一応考えて見ます。

オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器):確かに、オートクレーブと同じ2気圧まで加圧でき120℃に昇温でき、加熱時間もタイマーで15分に設定できる電気圧力鍋があるので代用できそうです。スノコ代わりに蒸し器を使うとよいでしょう。
←Panasonic マイコン電気圧力なべ

乾熱滅菌器:オーブントースターの利用。温度的には十分ですが、タイマー設定時間が短く、メーカーが長時間の連続運転を想定した設計をしていないので危険。 ピンセット類はアルミホイルにくるんで圧力鍋で蒸気滅菌すれば良いので、乾熱滅菌器が必ず必要という訳ではないと思います。
←Panasonicオーブントースター

クリーンベンチ(無菌操作用の装置):無菌箱を自作することが紹介されていますが、無菌性が保てるかどうかは怪しいです。 たとえカルス誘導できたとしても、さらに何ヶ月もかけて継代培養するうちにたった一回でもコンタミしてしまえば、カルスが全滅して何ヶ月もの苦労、努力が一発で吹き飛んでしまうかも知れません。 自作するなら殺菌灯付きのグローブボックスを作るほうが良いかも知れません。
それとも卓上のクリーンブースを購入したほうが良いかな?
ASONE簡易型クリーンブース

植物インキュベーター(植物用恒温培養機):光照射ができて、温度を一定に保つことができる装置で、家庭用のもので代用できる機械はありません。 理化学機器で購入すると何十万円もします。

・pH計:Amazonとかで数千円のものが販売されていますが、それなりに精度があるものが必要です。 pH調整がきちんと出来ていないと寒天培地の寒天が固まりません。
←デジタルPHメーター

・電子天秤:調理用デジタルスケールの使用。 表示桁数(0.1g)と精度(誤差±0.2g)が全くだめです。 最低でも数十mg単位で試薬を計らないといけませんから使えません。
←デジタルクッキングスケール

そんなところかな。

遊びでやるならともかく、ろくな設備もないところで誤差の大きい実験をして再現性が得られないのでは意味がありません。
STAP細胞問題と同じで、再現性の得られない実験データは成果が無いのと等しく評価に値しませんから。

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もうひとつ問題なのは、培地に使用する試薬の入手ですね。 これがなかなか難しいと思います。
和光純薬工業株式会社の国内代理店(←参照リンク)をあたってみるとかですか?

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8.専門の施設でしましょう。

ということで、植物組織培養をやりたいのであればきちんとした設備の整ったところで実験したほうが良いと思います。
高校の理科実験クラブとか大学の研究室とか、レンタルラボとか。

たいていの大学の農学部とかではやってるでしょう。
たとえば、愛媛大学農学部 応用生命化学 植物化学研究室とか、
信州大学繊維学部 先進植物工場研究教育センター(SU-PLAF)レンタルラボ とかもあります。
自分でやらずに他でやってもらう、植物組織培養受託サービスなんていうのもありますね。

いろいろと探して見て下さい。